本日、結婚いたしましたが、偽装です。


昼までには、なんとか納品書は間に合い、社長室から戻って来た課長に確認して、『ミスは無いな。これなら大丈夫だ』と、OKをもらってから、出荷や搬入を担う部門の物流部に持って行く。

一番下の階にある物流部の事務員さんに渡してから、営業のフロアに戻る頃は、もう昼休みになっていた。

福利厚生の一環で、社員食堂はなんと全品無料なので、私はいつも社食を利用していた。


「あ、佐藤さん。こっち、こっち」


唐揚げ定食を注文してから、どこに座ろうかキョロキョロと席を探している私に、明るい声で呼ぶ。


声をした方に振り向くと、窓辺の席から、一人の女性が私を手招きしていた。


「あ、藤本さん!」


私は、定食を持って、窓辺の席に向かうと、女性の向かいに座った。


藤本さんは、秘書課の社長専属の女性で、年に数回行われる、営業部の女子社員を対象にして『マナー作法研修』があり、マナーのエキスパートである秘書課の方々に、マナー作法を教えてもらっていた。


お辞儀の角度から、上役の方に対する言葉遣いから呼び方、お茶出しの仕方などなど……。

最初、秘書課の方というからには、厳しい人ばかりだと思っていたのだが、皆さん優しい人ばかりで、教え方も良く、褒めて伸ばすという方法で教育してくれ、そしてその中でも、私を担当してくれた三つ上の藤本さんは、時々他愛の無い会話をしているうちにとても話が合うことに気づき、意気投合してからは部署は違うけれどこうして、会社の食堂で話をしていた。

……藤本さん、相変わらず、お美しい……。


美人揃いと有名な秘書課の中でも、一際目立っていたのは、藤本さんだった。


小さな顔に愛らしい大きな瞳、女性の中では高身長でスラリとした体型、カモシカのように程よく引き締まった美脚、いつもほんのりと優しい香りがしている艶やかな黒髪。


もう、どうして社長秘書さんって、美しい人ばかりなんだろう。


こんな美人とずっといれるなんて、憎いぜ、社長、といつも思っていた。


「なんだか、久しぶりね」


「はい、そうですね。……最近、私ここに、来ていなかったので」


一週間ずっと、食欲は無かったから、その間いつも昼休みは休憩室でぼうぜんとしていた。


「そうね、一週間くらい佐藤さんの顔、見ていないなぁって、結構気になってけど、こうして見れて良かったわ。今日も午前、お疲れ様。なんだか、疲れた顔してるわね。……クマもできてるし、ちゃんと眠れてるの?前見た時よりもなんだか、痩せた?大丈夫?」