「今から行くから、龍御寺、先に行っといてくれ」
「分かった〜。なるべくすぐ来てよ〜、社長、せっかちだから僕が話し相手になっていても、君が来ないと駄々こね出すから、大変だから〜」
龍御寺さんは、最後まで自分が何者なのか明かさずに、ヒラヒラと手を振って、営業のフロアを出て行った。
「……佐藤、」
龍御寺さんが向かった先を見ていた私に、課長が声をかける。
そう呼ばれて私は、龍御寺さんにすっかり取られていた意識を自分に戻し、課長に視線を向けた。
「失敗しないとそこまで言うなら、やってみろ」
「えっ?」
課長は、私から取り上げた書類を、私の方に差し出した。
「いいんですか?」
おずおずと、訊く。
「ああ。だが、もう一度はないぞ。もう一回ミスを起こしたら、今度こそ他に頼む。……お前のこと、信じてるからな」
課長は、少し素っ気なく言ってから、くるりと背を向けて、龍御寺さんが向かった先を辿るように歩いて行き、フロアを出て行く。
「あ、ありがとうございますっ。課長!」
『信じてる』
課長の元で働いて三年目で、初めて言われた言葉だった。
課長に認められているような気がして、高揚感を感じると共に、今以上のやる気が出てくる。
よし、課長に『信じてる』って言ってもらえたんだ。
次は、絶対に小さなミスもしないで、他の人はもちろん、課長に良いと思ってもらえるようなプレゼンの資料を作ろう。
私は早速、パソコンに向かって、仕事を再開した。
