それでも私は、どんなに課長に耳が痛いことを言われても、仕事を任せられないと思われていても、諦められなかった。
だって、一週間ずっと、簡単な仕事ばかりだったのに、今日やっと、大きな仕事を任された。
課長に期待されているのかもしれない。
もしそうなら、ここで、失敗ばかりするからやらない方がいいなんて諦めては、いけないような気がする。
それから、今回のプレゼンは結構大きな仕事で、大手の建築会社と共同で開発する住宅の建設の際に使用する様々な工具をウチの会社が設計し、大手の建築会社に取り扱ってもらえるようプレゼンをして、成功すれば、ウチの会社の名も上がるかもしれないと言われていた。
会社全体が、営業に期待を寄せる今回の企画の資料作成を依頼されるというのは、私にとって初めてのことで、それからなんとしてでも最後までやり遂げたい仕事だった。
私は、課長の後を追いかけた。
「あの、課長っ」
申し訳なさそうに断る社員に私に任せていた仕事を依頼する課長の背中に、声をかける。
クリスマス前の繁忙期に差し掛かるこの時期は、社員は自分の仕事だけで手一杯で、私の分まで手は回らない。
課長も、それを分かっているのか、更に深く眉間に皺を寄せて、こめかみを押さえながら長い吐息をついた。
「本当に、申し訳ありません。曖昧に中途半端に仕事をして、こんなに忙しい時なのに失敗して、足ばかり引っ張って。でも、今度こそ他ごととか考えないで、しっかりと集中して、作成します。だから、お願いします。その仕事、もう一度やらせて下さい。お願いします……!」
深く深く、頭を下げて、懇願する。
心臓は、断られるかもしれないという不安と恐怖で、ドクンドクンと高鳴っていた。
忙しなく鳴り響く電話や、プリンターの印刷する音、社員の話し声などがする中、私は必死に頭を下げ続ける。
数分も経過しないうちに、頭上から深い溜息が降った。
「頭上げろ」
私は、そう言われても、上げなかった。
「佐藤。いいから、上げろよ」
ゆっくりと上げると、険しさは残っているけれど、先程より強張ってはいない課長の顔が視界に入った。
「でもな、お前に任せても、」
『また失敗するだろう?』
課長が次に何を言うのか予想して、やっぱり無理なのかなと思いながら、それでも粘り強く『お願いします』と、強く懇願する。
「まあまあ、鬼ちゃん〜。こんなに可愛い子がここまで言っているんだから、もう一度信じて、任せてみなよ〜」
不意に突然、語尾を伸ばして優しげな感じでそう言う声が、課長の後ろの方から聞こえた。
えっ?誰?……今、『鬼ちゃん』って言ったけど、課長のことだよね……。
親しげにそう言った人は誰なのかと、小首を傾げながら頭を上げる。
「龍御寺、いつからいたんだ……?」
課長の目線の先には、明るい茶色の髪をした、これはまた課長に負けず劣らずのイケメンが、立っていた。
一体、誰?
