本日、結婚いたしましたが、偽装です。


「あ、すみません。すぐにやり直します」


私は、慌てて課長から書類を受け取ると、赤ペンを引かれた紙に目を通した。


「まだ、プレゼンまでは時間はあるとしても、納品は今日の昼までだ。至急、やり直せ。……まだ、ぼうぜんとしてんのか?」


「えっ?」


「……もうそろそろ、普段の仕事頼んでも大丈夫かと思ったんだが、まだ、昨日の今日じゃ無理か。佐藤、出来ないならまた他の奴に頼むぞ」


課長は、そう言って、私に渡した書類を持って行こうとするみたいに、片手を出した。


こうして、やっと与えられた仕事をしても、また失敗をして、課長にあきられて仕事が捗らないと、他の人に仕事を回されていた。


「っ、大丈夫です。今度こそ、しっかりとやります。なので、最後までやらせて下さい。……お願いします」


私は、立ち上がって、課長に頭を下げた。


「でもな、お前の小さな失敗一つで、大きな損害が出る場合もあるんだぞ。この納品書一つだってそうだ。たった紙切れ一枚のやりとりだとしても、多額の金が動くんだ。お前は、向こうにこちらが本来請求するはずの正規の金額よりも多く請求するところだったんだ。そんなことをしてみろ。ただの間違いでしたじゃすまないんだぞ!ウチの会社の信用は失い、それどころかもっと取り返しがつかないことになるかもしれないんだ。普段から言っているだろう、俺だって見過ごすかもしれないから、自分達でも良く目を通せ、と」


「ちゃんと、目は通したつもりです」


ぐっと、下唇を噛んで、蚊の鳴くような声で言った。


今日納品予定の工具の納品書も、他社と共同企画の最新式の画期的な機能を搭載した工具のプレゼンの資料も、パソコンの画面でも良く抜けた箇所は無いか探して、プリントしてから課長に見せる前にも、隈なくチェックしたはずだった。


「つもりじゃ、ダメなんだ。つもりとか、したはずとか、曖昧じゃダメなんだよ、仕事は!ミス一つ無く、完璧に仕上げる。お金をもらっている以上、それが当たり前なんだ。もういい、納品書も資料も、他に手が空いている奴探して頼む」


課長は、冷たく言い放ってから、私から書類を奪う。

そして、私に背を向けて、歩きながら手が空いている社員を探しているのか辺りを見回す。


課長の言葉は、どれもこれも耳が痛いことばかりだった。


曖昧で、ぼうぜんとした状態で仕事をしたら、一社員の私のせいで、会社に大きな損害を与えてしまうことになる。

それから、ちゃんとお給料をもらっている以上は、その分しっかりとやらないといけない。


お金を稼ぐということは、働くとというのは、こういうことだ。