本日、結婚いたしましたが、偽装です。


翌日は、何故か課長のことばかり考えていた。

課長と一緒に残業したまではいつも変わらなかったけど、まさかその後、課長の家に行って、課長の手料理を食べるなんて。


家といっても、見上げようとすれば首が痛くなるくらい高い超高層高級マンション。

一社員だからあまり大きな声で言えないけど、ウチの会社は一流企業ではなく中小企業で、役職に就いていてもお給料はべらぼうに高くも無く安くも無く。


今まで課長のことは全く分からず、謎な人だったけど、こうして一部だけ分かっても、余計にますます分からなくなった。


中小企業の中間の役職で、超高層高級マンションに住んでいるということは、もしかして他に仕事をしているとか?


ウチの会社は、確か副業は禁止されていたはず。


でも、それしか考えられない。


それか、家がとんでもないお金持ちとか?


どこかの御曹司とか?

まさか、そんな漫画とか小説とかフィクションの世界じゃあるまいし、課長が御曹司とかあり得ないと思う。

まぁ、御曹司な課長も、何もかも完璧そうな課長に似合いそうな気もするけど。


そういえば、課長は、一人暮らしだったのかな?


昨日はあまりの驚きの連続に、そういうことに気づかなかったけど、なんだか一人で暮らしているように見えなかったんだよね……。


清潔できっちり整理整頓がなされている部屋、大きなソファーに、大きなダイニングテーブル、それから大きな食器棚のガラスから見えたけど、どれもこれも二人分の食器。


昨日は他に誰かいるような気配は無かったけど、本当は誰かと一緒に暮らしていたりするのかな……?


誰か、誰か……、付き合っている人とか?


何もかも出来てしまいそうで、尚且つファンクラブがあるくらいの格好良さだ、恋人の一人は二人はいたっておかしくはない。


課長の恋人……、あの課長と付き合う女の人は多分、モデルみたいに背が高くてスラリとした体型の、女優みたいな綺麗な顔立ちをした人なんだろうな。

それから、一流大学卒で英語とかペラペラのとにかく頭の良い感じで、知的な雰囲気を持ってたりしてさ。


「……うんうん、お似合いな二人だよね。完璧なカップルだ、完璧な」


「はあ?全然、完璧じゃないがな。もう一回、やり直しだ」


独り言を呟いたその時、不意に唸るような低い声が背後からした。


「ほえっ!?」


びっくりしながら、後ろを向くと、課長が立っていた。


眉間に深く皺を寄せ、切れ長の瞳を鋭く細めて、険しい顔つきで、私を見下ろしている。


「さっき頼んだ納品書、合計金額が間違っていたぞ。それから商品企画と連携して今度大手のメーカーにプレゼンする時に使う、資料。これはなんだ、分かりにくいったらありゃしない。向こうは、俺たちと仕事すんのが今度のプレゼンが初めてという人がいるんだ。伝わりやすい的確な言葉と分かりやすいグラフにしろと言ったはずだ。ちゃんと前もって渡した参考資料、よく目通したのか?」


課長は、淡々とした口調で滑舌良くスラスラと言いながら、私が先程作成したばかりの納品書とプレゼン用の資料を、私の顔の前に突き出した。