無理ってことないけど……。
普段の、課長の意外な一面を知る前の私なら、何か理由をつけて即断っていたはずだろう。
だけど、今の私は、何故かその誘いを断れなかった。
「はい…。今度、是非…」
おずおずと言うと、課長は、頬を緩ませて明るい笑顔になった。
「…っしゃ。じゃあ、今度近いうちに、絶対に行こうな」
会社の時と違う口調に、より一層、ドキッと大きく鼓動が高鳴る。
どうしてこんなに、課長の笑顔に、いつもと雰囲気も口調も違う課長に、ドキドキするの?
普段見たこと無くて、珍しいからって…。
でも、そういう理由だけじゃないような気がするけど、それも気のせいだ。
「絶対、佐藤は断わるって思ってたけどな…」
「えっ、そんな断りませんよ」
私は軽く手を振り、否定する。
薄々だけど、多分課長は、私が課長のことが苦手ってこと、気づいていたんだろうな…。
だから、『佐藤は断わる』って、そう予想していたと、私に言ったんだろう。
「肉だからか?」
推察していると、課長は口角を上げて、にやりと笑い、からかうように言った。
「ち、違いますよ…!そりゃあ、肉は大好きですけど、それにつられたわけじゃないです。…課長のこともっと知れる機会かもって思ったんです」
今日だけで、色んな課長を知った。
そして、優しい課長を一つ一つ知るだけで、私の課長に対する気持ちが、少し変わったのは確かだった。
私はずっと、苦手苦手と言って、本当の課長を知ろうともしなかった。
こんなに、明るくて優しい人なのに、上司と部下だからと、上司の課長の人となりを深く知らなくても良いと思っていた。
でも、今日、その考えが変わって、課長のことをもっと知りたいと思った。
「ふっ、そうか…。それは、なんというか嬉しいな…」
「えっ?」
嬉しい…?何が、嬉しいんだろう…?
課長の言葉に目を瞬かせた。
「あ、佐藤、長々と引き留めてごめん。外、寒いのに…。早く中に入って、よく身体、温めろよ」
課長は私の身体を心配するように、気遣いに溢れた事を言ってくれる。
あ、そうだった、ずっと外にいたんだ。
