「か、課長…?なんですか…?」
蚊の鳴くような声で訊くと、課長は、はっとしたように僅かに目を見開いてから、ぱっと私の肩から手を離した。
「すまない。なんでもない」
数秒もしない内に、いつもの無表情に変わった課長が、俯き加減になり、低いトーンでそう言った。
もう…、本当に、なんなんだろう…。
びっくりした…。
「…では、失礼します。…また、明日…。おやすみなさい…」
私は少し早口で言ってから、今度こそドアを開けて車から降りた。
少し屈んで姿勢を低くし、課長にもう一度会釈してから、ゆっくりとドアを閉めようとすると。
「佐藤っ」
課長の声がして、私はドアを閉める手を止め、課長を見た。
「…はい」
二度、引き留められた私は、課長は私に何か言う事でもあるのだろうかと考え、もしや明日の仕事も失敗するなとかそういう事を言われるだろうかと予想して、少し身構えながら課長の言葉を待つ。
課長は、短く吐息をついてから、口を開いた。
「なあ、今度、また一緒に食事、行かないか?」
「えっ…?」
想像と違う課長の言葉に、私はぽかんとした。
もしかしなくても、課長に食事に誘われてるってことだよね…。
「ほんとは今日、連れて行きたかったんだけど、美味い肉料理の店があるんだよ。俺の行きつけでさ…。佐藤、肉好きって言ってたから、どうかなって…。あ、無理ならいいから…」
