それから数分後、課長お手製のおじやが私の前に置かれた。
ふわりと優しい和風のお出汁の香りが、更に食欲を刺激する。
私の分のついでに自分の分も作った課長は、私の隣に座って、花の模様がある木のスプーンを持った。
ダイニングテーブルあるのに、ここで食べるんだ……。
「食えよ」
課長はそう言って、私が食べ始めるのを待っている。
「あ、はい。…じゃあ…、いただきます」
私は、手を合わせてそう言ってから、課長が持っているスプーンとお揃いのスプーンを持った。
熱そうなおじやを掬い、息を吹いて冷ましていると、無表情の課長に見つめられているのに気付く。
「な、何ですか?」
もしかして、また変な顔でもしてた?
「いや、なんでもない。…いただきます」
課長は、私から目を逸らすと、私と同じようにフーフーしてから、おじやを食べ始めた。
なんだか、今日の課長は、普段よりも分からないな…。
そう思いながら、おじやを口に運んだ。
「あ、お、美味し…」
約一週間ぶりに食べた、まともな食事のおじやは、とても美味しかった。
優しい味で、温かさが身に染みて、なんだかとても落ち着くような、ほっとするような。
「課長、とても美味しいです」
隣に居る課長に感想を言うと、無表情だった課長は、不意に目を細めて、穏やかな微笑を浮かべた。
っ!
普段から見慣れていない課長の綺麗過ぎる微笑みを目の前にした私は、一瞬だけ息が止まった。
本当に、今日の課長は、いつもの課長と違いすぎて、調子が狂う。
頬を火照らせながら、私は無言のまま、ゆっくりと時間をかけて、課長の手料理に舌鼓を打った。
