長い沈黙の後、課長はソファーから立ち上がり、カウンターがある広いキッチンへと向かった。
それから、立派な冷蔵庫を開け、中からごそごそと食材らしきものを取り出して、収納棚からまた何かを出す。
「あの、課長…?」
突然、キッチンで何かをやり始めた課長に、おずおずと声をかける。
もしかして、これから料理を作るの…?
課長が?
振り向いた課長が、吐息をついた。
「これから、飯を作るんだよ。一週間も変な食生活でしかもここ二日は何も食ってねえなんて言って、腹空かせてる部下にな」
課長は、皮肉混じりにそう言ってから、くるりと身体の向きを変えて、私に背中を向けた。
「二日も食ってねえとなると、なるべく胃に負担かけないもんの方がいいよな…。おい、佐藤、おじやは好きか?」
何の説明も無しの、突然の課長の質問に、ぽかんとしつつも、
「えーと、はい、結構好きです」
と、答えた。
課長が料理をするというのにも驚きだけど、どうして私にご飯を作ってくれるのか、分からなかった。
残業後、上司の家に連れて行かれ、手料理をご馳走になるという、鬼頭課長のファンの女子社員にとって羨ましい限りの展開かもしれないけど、私は全くついていけない。
課長の手際良さそうな感じで、見た感じ最新式のガスコンロで料理を作る後ろ姿を眺める。
なんか、いつも普段から自炊しているって感じ。
私が料理する時の余裕の無さと比べようもないほどの、余裕があって優美な動きだった。
