「えっ?」
……嘘だろ⁈
俺の中の俺が、顎が外れるくらい口を開けて驚愕するのが分かる。
今まで、龍御寺の前では細心の注意を払って“部下のことが好き”という気持ちはもちろん、態度も言動にも現さないようにしていたのに……。
まさか、気づかれていた⁈
俺は再び、その場に硬直して、龍御寺の表情の中で一番気に入らないニヤニヤ顔を無言のまま見つめることしか出来ない。
その瞬間、すぐ背後にあるドアがノックされた。
俺は大袈裟なほどにびっくりして、肩を跳ね上がらせる。
「社長、失礼致します。次の予定の時間が迫っております」
ドアの向こうから、藤本さんのくぐもっているけれど澄んだ声が聞こえる。
すぐにドアが開いて、ファイルを手にした藤本さんが入ってきた。
「分かった。こちらも終わったから、先方にはすぐに向かうと伝えてくれるかな?悪いね、藤本くん」
さっきとは打って変わった、仕事中や真面目な時に出す低い声で、社長が比較的真面目な顔をして藤本さんに言った。
「いえ、かしこまりました。それから今週の経営会議の予定についてですが、参加予定だった役員の方一名が急の用事で欠席するとの連絡があったのですが、どう致しますか?」
藤本さんは俺と龍御寺に目をくれることもなく、変わり身の術を持つ社長に報告をする。
こういう時の彼女は真剣だと俺はもちろん龍御寺も知っていた。
そして、彼女が一つ目の報告を終えたのを見計らって、龍御寺が口を開いた。
「じゃあ、僕たちはそろそろ失礼するよ〜。社長、またね」
「ああ、また。社員の様子などの報告を頼むよ。君の監査は素晴らしいと監査委員会はもちろん、私もそう思っているからね。いい報告を聞けることを期待しているよ」
キリッとカッコをつけた社長がそう言ってウィンクをすると、龍御寺は社長ににっと笑ってから、その場に硬直する俺を引きずるように連れて行った。
