最上階の奥にある社長室に入ると、秘書課の社長専属秘書の藤本さんが綺麗なお辞儀で出迎えた。
龍御寺が奥の応接室で社長の相手をしているのか、微かに話し声が聞こえた。
いつも俺と龍御寺が社長と話をする時は、社長は人払いをして専属秘書の藤本さんすら隣の秘書課に行ってもらうようにしていた。
美人で気立てが良く、社内では高嶺の華的存在とされている藤本さんは俺ににこりと笑顔を残してから社長室を出て行く。
俺は短く吐息をついて、今度はどういう断り文句にしようかと考えながら憂鬱な気分で応接室のドアをノックする。
するとすぐにドアが開いて、相変わらず笑顔の龍御寺が出迎えた。
「あ、来た来た〜。鬼ちゃん、待ってたよ〜。ねー、社長も待ってたよね〜」
「すぐ来た方だと思うがな」
俺は冷たく龍御寺の相手をして、応接室に入る。
「鬼たん、待ってたお」
とかふざけているように聞こえるけれど、本人は“自”で言っているおちゃらけた中年が、もちろん社長だった。
正真正銘の、ウチの会社の社長だ。
嘘だと思いたいが、子会社を任せると俺の父親が数十年前に当時自分の部下だった社長を『ウチの会社の社長』に任命したのだからまごう事なく事実だった。
「あぁ、そうですか……」
俺はいつものことだと、呆れを通り越している冷めた気分で社長相手に対応する。
「あー、なんか鬼たん冷たいー。僕ずっと、今日も一人でここにいて寂しかったの。だからもっと優しくして欲しいよ〜」
社長は俺に近づいてくると、俺の周りをうろちょろしながら高めの声を出してそう言った。
「はぁ、そうなんですか。ですが、こっちは暇じゃないんですよ。わざわざ仕事を中断してまで来たんです。早く話に入って下さい」
「あん、鬼たんってば本当につれないんだから〜。ねえ〜?りゅうりゅう」
どこからどう聞いても見てもふざけているようにしか思えないが、本人はいたって普通にやっているらしい社長が龍御寺に同調を求める。
「ねえ〜、社長。寂しいよね〜。あ、そうそう、さっき言い忘れたけどさ〜、社長が前言っていた『にゃんにゃんにゃんこの大冒険』のキジミケ大魔王のレアグッズが限定発売される店、分かったよ〜。社長、キジミケ大魔法大好きでしょ〜」
「えっ⁈やだ、ほんと⁈僕キジミケ大魔王大好きなん〜。りゅうりゅう、それ、詳しく教えて!」
……くだらねえ…。
俺の怒りのボルテージが一気にMAXまで上がっていく。
二人は巷で人気の猫のキャラクターにハマっているらしく、会えば本来の目的を忘れてそういう話に熱中していた。
「えっ⁈その日、僕、定例会議じゃん〜。がーん……。あ、ネット販売しないの?」
「ネット販売はしないみたい。店舗限定品なんだって〜。社長、辛いね〜」
「辛い〜。キジミケ大魔王一番の推しで限定グッズは絶対に手に入れたいのに〜。辛い〜。欲しい〜。辛い〜」
「……っ、早よ、本題に入って下さい!」
いつまでも終わらない二人の会話に苛立ちながら、俺はそう叫ぶように言った。
