「たまきちゃんとは、深雪のことで色々と相談に乗ってもらったり、話をしたりして二人っきりで会っているうちに、そういう仲になって、つい最近から付き合うようになったんだ」



相変わらず淡々と告げるやっくん。




たまきとは、やっくんの会社の取引先、たまきが就職した大手の商社との仕事で、私という共通点があり、仕事でもプライベートでも意気投合して、私の知らないところで二人で会っていたらしい。



主に私との結婚のことで、私を良く知っているたまきに相談していたみたい。



でも次第に、やっくんがたまきに好感を持って、好きになって、たまきもやっくんに好意を持ったらしい。


お互い好き合っていて、たまきと本格的に付き合いたいから、婚約者の私と別れたいということで。


やっくんの一つ一つの言葉が心に突き刺さって、何も聴きたくなくて耳を塞ぎたくても、出来ない。



たまきとやっくんが、もう既に付き合っているなんて信じたくないけれど、やっくんの表情や雰囲気からして、私にはもう好きだという気持ちは無いんだと分かった。



カフェで、淡々と別れ話をして、それに追い打ちかけるみたいに、私の友達と婚約中に付き合っていたなんていう話をするくらい、残酷なやっくん。



直接じゃなくて、電話かメールで、済ませてくれた方が、まだ良かった。



「そういうことだから、深雪とはもう会わないし、連絡もしないから。今まで、ありがとな。じゃあ」



やっくんは、最後まで悪びれなくて、一方的にフッて、そうトドメの言葉を私に刺してから、カフェを出て行った。


やっくんが居なくなった前をぼうぜんとしたまま、釈然としない気持ちで、見つめる。


本当に、別れなの? どうして、婚約までしていたのに、たまきを好きになったの?


たまきだから? 私じゃ、やっぱりやっくんに釣り合わないから、外見も頭脳も完璧なたまきの方を選んだの?


なら、最終的に選ばれなかった私のどこかがいけなかったの?


教えてよ、私のどこが悪いのか。


やっくんの理想に近づけるように、なれるように、直すから。


やっくん、酷いよ。ズルイよ。


嫌々ながらのプロポーズをしてから、私に本音を言うなんて。


後から言うのが、一番卑怯だっていうこと、知っている?


やっくんにとって、嫌々の仕方なくのプロポーズ、だけど、私にとって人生で初めての彼氏からのとっても嬉しいプロポーズだったんだよ。


キラキラ煌めく夜景と共に、一生の思い出の宝石箱にしまって、一生大事にしたいって思っていた。


やっくんとの三年間の大切な思い出と共に。



初めての彼氏と結婚して、私を待っているのは順風満帆な幸せな結婚生活だって、信じて疑わなかった。



まさか、自分の大親友と浮気されて、一方的にフラれるなんていう結末を迎えるなんて、
夢にも思わなかった。



彼氏と親友を同時に失い、人生において初めて深くて暗い底に突き落とされて、絶望感を味わっている二十五歳の冬。



笑顔でお茶をしている人が周りにいて、フレンシポップがゆっくりと流れるいつものカフェには居たくなくて、いつもなら注文するウィンナーラテも何も頼まずに、よろめきながら外に出た。


街中には、イルミネーションが点灯されて、
どこもかしこからもクリスマスソング。


寒いのに寒さを感じなくて、キャメルのダッフルを持ちながら、帰路につく。