龍御寺が言った『例のこと』とはどういうことなのか、すぐに分かった。
……“大元”の俺の父親に逆らえない社長がわざわざ俺を呼び出すのは、一つしかない。
全く、しつこいったらねえ。
何度も何度も断ってもしつこく話を持ってくる両親や社長にうんざりしている俺は、こめかみを押さえて深く吐息をついた。
「ああやっぱな。また例のアレか。ったく、何度も断っているのに、次から次へと話持ってきて、うんざりだ」
……しかも、こっちは仕事中だというのに。
だけど呼ばれてすぐに行かないと仮にも相手は社長でやはり角が立つし、『なんですぐに来てくれないの〜』といい歳してぐずる社長の相手をするのも疲れるので渋々だが行くことにした。
「今から行くから、龍御寺、先に行っといてくれ」
「分かった〜。なるべくすぐ来てよ〜、社長、せっかちだから僕が話し相手になっていても、君が来ないと駄々こね出すから、大変だから〜」
龍御寺はヒラヒラと手を振って、営業部のフロアを出て行く。
今の今まで忘れていたわけではないが、佐藤にもう一度仕事を頼むか頼むまいか悩んでいるところだったと気づく。
佐藤を見ると、佐藤はまだ困惑したような表情で、龍御寺が歩いて行った先を見つめている。
「……佐藤、」
そう呼ぶと、佐藤はゆっくりと俺の方に視線を動かした。
……『もう一度信じて、任せてみなよ』。
龍御寺の言葉を反芻してから、こう思った。
こんなに真剣に佐藤がもう一度仕事をやらせて下さいと言っているんだ。
もう一度信じて、任せてみるか……。
ミスをすると疑ってばかりでもいけない。
他の社員も手が空いていないからこのままでは納品書と資料の作成は進まないし、初めは佐藤の仕事だったんだ。
佐藤を信じて、任せよう。
「失敗しないとそこまで言うなら、やってみろ」
「えっ?」
俺は、佐藤から取り上げた書類を佐藤に差し出す。
