「でもな、お前に任せても、」
俺が『まだ本調子じゃなさそうだし、大変だろう?』と言おうとすると佐藤は、『お願いします』と頭を下げた。
ここまでされて、これ以上は『やるな』とは言えなかった。
だけど、まだ本調子ではなくてミスを起こす佐藤にもう一度頼むのも躊躇われた。
どうすればいいのだろうか……。
「まあまあ、鬼ちゃん〜。こんなに可愛い子がここまで言っているんだから、もう一度信じて、任せてみなよ〜」
不意に突然、耳馴染みのある高い男の声がフロアの入り口から聞こえた。
……いつまでも変わらない、俺のことを『鬼ちゃん』と呼び、語尾を伸ばした喋り方は“あいつ”しかいない。
俺はその声の主を想像して、振り向いた。
「龍御寺、いつからいたんだ……?」
その男、『龍御寺』は俺の同い年の幼馴染で昔から親同士が付き合いのある謂わば腐り縁というやつだった。
ウチの会社の“大元”が俺の親であり、俺の父親に任命されて自分の親の会社を手伝いながらここの社外取締役を務めていた。
大役を任命されているというのに、この男はウチの会社を自由に出入りできるのをいいことにこうしてふらりとやってきては色んな部署を意味もなく回って仕事中の社員に話しかけたりして邪魔をしていた。
本人曰く、『社員たちとのコミニュケーションも僕の仕事のうちだよ〜。だって、話せば嫌でも会社のあれこれが耳に入って、いちいち監査入れなくても社則に沿って仕事してるかだいたい分かるから〜』だそうで、邪魔をしているわけではなくあくまで視察を行っていると言っている。
では、そうして回った色んな部署で好みの女子社員をナンパすることは果たして視察の仕事なのだろうか?
視察ではないだろう。
観察だろう。
しかもナンパして遊ぶのは一度に複数人で、後から大ごとになりやしないかとヒヤヒヤしている。
全員、ウチの会社の部署の女子社員なんだぞ⁈
その女子社員達の恨みを買ったあの男の尻拭いは、もう二度と御免だった。
女遊びの激しいあの男と一緒にいたおかげで、学生時代に嫌というほどした。
だけど不思議なもので、最近はあまりそういういざこざに巻き込まれることはなく、あの男の女遊びも落ち着いたみたいだった。
