記憶を失くした少女【完】





「この辺に用があったからに決まってんだろ」


動揺する私とは反対に、とても落ち着いている。


繁華街の明かりが彼の赤い前髪を美しく照らす。


「取りあえず、この辺でいいだろ」


繁華街から少し離れた場所で私を地面におろし、その頃には私も落ち着き、一人でも立てるようになっていた。


「……ありがとう」

取りあえずお礼を言う。


蘇芳遥輝のおかげで助かったものだし………。



「この辺、夜は気をつけたほうがいい。酔っぱらいや血の気の多いものが多いからな」


よくこの辺にくるのだろうか。何だか知ったかのような言い方だった。


どんな用事で来たのか少し気になる気もするけど、あまり関わりたくないし、向こうも私のことは嫌いだろうから、この辺で去ろうかな。


ん?ってか、私のこと嫌いだったら助けなきゃいいんじゃなかったの?


…………………嫌いな人をわざわざ助けるなんて、変わった人だなぁ。


思い返せばよく助けられてるし。


「………それじゃあ」

私は軽くお辞儀をしてその場を去ろうと背を向ける。








……………………が、



「なぁ」


引き止められてしまう。