記憶を失くした少女【完】




誰にも助けを呼べず、ホテルの前まで来てしまった。


「ほら、早く行くぞぉ~♪」


男はスゴく上機嫌だ。


「本当にやめてください!!!」

最後の抵抗を見せるが、やはり男にはきかなかった。


あぁ、もう。本当に嫌だ。私がもっとちゃんとしてたら、普通に幸せに暮らしていたのかな…………。


あの時のLIMEは色んな男の人からきていて、怖かったのもあるけど、この人のような人がいると思うと、もっと怖い。

「ほらっ」

「キャッ……っ!」

中々入ろうとしない私を、ドアの中に引きずり込もうとする。


「お願い…………………………誰か助けて………………」


溶けてなくなりそうぐらい小さな声でそう言った。


もちろん誰も足を止めない。


引かれるがまま中に連れてこまれそうになったとき、




_______ガシッ。


後ろから誰かが私の肩を掴んだ。


「…………え?」

驚いて後ろを向く。


「何だい!?君は!!」

おじさんは顔をしかめ不機嫌そうになった。

私はというと、その人の出現にかなり驚いていた。


「わりぃけど、ソイツと約束あるから」

もちろん、その人と約束なんてしてはないけど、たぶん助けるための口実。


「ガラの悪い小僧なんかに、この子はなおさら渡せない!!この子は僕のだ!!!」

おじさんは睨みつけながら対抗した。

きっと、相手には効果なんてないだろうけど。


「……あ"?」

_____……ゾクッ。


ドスのきいた声。

それだけでももの凄い鳥肌が立つ。


スゴい殺気らしきものが相手から感じ、おじさんは思わず後ずさりした。


沈黙の睨み合いが続く。


「……………………っく。勝手にしろ!!!こんなビッチ女、僕から願い下げた!!!!!」


降参したのか、おじさんは暴言を吐きながら、私の肩から手をどけ、去っていった。