記憶を失くした少女【完】





開くドアの中から現れたのは______………。


「……………………………え?」


会いたくない人だった。


「…………………お前」


向こうも私を見て驚いている。


本当に会いたくなかった。こんなに広い校舎なんだから、会う確率の方が少ないなんて思っていた自分の考えはどうやら甘かったようだ。


あぁ……………逃げたい。


そんな私の気持ちは届くはずもなく、その人はどんどん私に近づいてきた。


「お前、この学校だったんだな」

「……………………そうだよ」


惚けてみたり嘘をついたりしても通用しないだろう。


すでにこの人にはあのとき会っているから。


……………………待てよ?記憶がなくなったこととか、前の私がアレだって事は気づいてるのかな!?


噂で耳にしてもおかしくないよね……………。


「…………なんだ?」

「え、あ……………その………」


でも、普通に話してるってことは気づいてないのかも。


もし、知ってたらまたあのときのような態度はとっていないよね?


「そう言えば名前聞きそびれた。山田なに?」

あぁもう、こんな時に……………1番思い出してほしくないことを思い出すんだから。


「あれ?言わなかった?」

取り出す惚けて…………………「山田しか聞いてない」も無理だよね……………分かってた事なのに。


山田だけだったらどこでもいそうで済むけど、下の名前言ってしまったらもう逃げられないよね。


でも、言わないと不自然だし偽名使ってもいずれバレる。



もう、覚悟を決めて言っちゃえ!!!


後のことは知らない!!


「山田……………綺羅」


とは言ったもののやっぱり怖いから恐る恐る顔色を伺うように言ってみた。