【side綺羅】


____コト………。


「いつものでいいか?」

凌馬さんのお店に着くと、いつもの飲み物を私に出してくれた。


休店しており、お客さんのいないお店は無駄にシーンとしてみえた。


気を使って飲み物を出してくれたっぽいけど、この状況で飲み物なんか喉を通るわけない。


「凌馬~!俺コーヒーな」


「はいはい」


取りあえず、2人にお礼を言わなきゃ…………………。


「あのね…………………」


空気が重い。


でも、言わないと。


「………………………助けに来てくれてありがとう」


助かった事実は変わらない。


きっと、スゴく2人には心配をかけた。


「…………………あぁ。取りあえずこれ返しとくな」


隣に座ってコーヒーをすする旭川さんは、私にキーホルダーを渡した。


それは、学校用のカバンについていた物だった。


「……あ。いつ取れたんだろう?」


「路地裏に行く通りの入り口に落ちてたぜ。まぁ、これで状況を判断できたし、俺としては助かったけどな」


落ちていた場所とその持ち主だけで、あの状況を導き出すなんて……………………旭川さんすごい。


「それよりも、綺羅ちゃんはRYUSEIの姫だったんだな」

そう言う旭川さんも、まさかの事実に驚いている様子。

隠すつもりはなかったんだけど、何となく言えてなかったんだよね。


「…………………うん。大切な友達であり、仲間なの。記憶を失った私を初めて信じ、輪に入れてくれた人たちだった。毎日がとても楽しくて充実していたわ」


あの頃の私は周りに怯え、ただ下を見て過ごしていたから、その時間が何よりも大切なものだったって今ながら分かる。


……………………でも、裏切ることになってしまった。


私はみんなが思うように綺麗じゃない。

例えみんなが私を受け入れたとしても、私が自分を受け入れきれない。


「今の生活が綺羅ちゃんにとってはとても大切なものだ。転校なんてさせるべきではない」

旭川さんは私の気持ちを考慮して、凌馬さんの言葉に反対している。


正直、そうして頂けたのは嬉しかった。

「綺羅ちゃんからも何か言えよ!このままじゃ転校させられるぞ!?コイツ親ばか見てぇなとこあるから!!」

でも、


「……………旭川さん。私は凌馬さんの言った通り転校しようと思うの」


「はぁぁぁあ!??正気か!!?」

みんなと離れる分けだし、寂しくないと言ったら嘘になる。


でも、今あの場所に私が戻るべきじゃないと思うの。


私の居場所はそこじゃなかった。

居場所だと思っていたのは誰かのもので、ずっと誰かのものを奪ってただけなのもしれない。