記憶を失くした少女【完】



____クルッ。


そして、男は俺らの方を振り向くと、ゆっくりと歩いてくる。


まるで死刑宣告をされた囚人かのような気分だ。

遥輝はもう戦える力は残っていないし、俺は喧嘩すらしたことないからどうすることもできない。


こんな奴を相手に太刀打ちなんか出来やしない。


再び訪れた危機だったが、男は俺らには目もくれず横を通り過ぎていった。


予想外の出来事に唖然とする。


「………………あ、おい!!」

重い沈黙の中、最初に口を開いたのは遥輝だった。


その声に男はその場に立ち止まる。


「どうした?」

「なんで…………………俺達を素通りするんだ!!?」


遥輝の言いたいことはよく分かる。


奴らだけやられて、この場にいた俺らに手を出さないなんて少しおかしい。

「…………………ただの気まぐれさ。それに奴らにやられてたお前らだ。やったところで結果は見えてる。…………だろ?」


…………………………………確かにそうだ。


この人は強い。1人であれだけの人数を倒したんだ。


奴らにボコボコにされた俺らと戦ったところで、結果は見えてる。