記憶を失くした少女【完】




「な、なんだよ……………急に」


「…………………行こうぜ」


男たちは顔を引きつらせ、その場を去っていった。


いなくなった途端、訪れる謎の沈黙。


何か喋った方がいいのだろうか。下手に口を開いて癇に障ることを言ってしまう恐れとかあるけど、重い雰囲気よりはマシよね!

「買い物済んだし、そろそろ帰ろう!」

「……………………あぁ」

明るく振る舞う私とは正反対に、帰りの大平くんはやけに静かだった。


きっと、さっきのアレが関わっているのだろう。


家の前に着いてもなお、大平くんは元気がなかった。


「……………それじゃあ、また明日ね」

そんな大平くんを気にしているけど、あえて触れないでおく。

「………………………………お前は聞かねぇんだな」

その声はとても切なげで、この場に溶けて無くなりそうなほど細く、小さかった。


私が触れないでおこうと思ってても、大平くんはそんな私のことを逆に気になってたみたい。


「………………何があったのか知りたいけど、大平くんが話したくなったら私に話してよ」


傷をえぐるような真似はしたくないから、言ってくれるまで、私は待つ。

それがどんなものであれ、私はどちらにしても受け止めるつもりだし。

「………それじゃあ、今日はありがとう!また明日ね!」


私は気持ちを切り替えるようにそう言うと、アパートの中へ入っていった。


元気のない大平くんなんか、おかずのないご飯と一緒のようなものだから、早く元気になって、またいつものように笑ってほしいな。