そう。この教室があるのは東校舎の2階、そして一番南側。
西校舎の一番北側に位置する生物学室とは、ちょうど反対なのだ。

「でも、見つかったんだからまだいいんじゃないかな。だって、この学校には無い架空の教室を指定された可能性もあったじゃない?」
瑠菜が言い終わると同時に「・・・ねぇ、ちょっといい?」と小さく手を挙げたのは、柚子。

「さっきふと思ったんだけれどさ。生け贄の範囲って、どこまでだと思う?」


――どういうこと?
しばらくあたし達がその言葉を理解できずにいると、噛み砕いて説明してくれた。

彼女が疑問に感じた事とは、生け贄がクラスメイト以外――例えば担任や校長、事務員など教師やこの学校に勤務している人間でもいいのか。

最初に来たメールを確認すると確かに柚子の言う通り、クラスメイト全員で決めるとは書いてあるけれどその対象は載っていない。

彼女の疑問はもうひとつ。
「このメールにはクラスメイト全員で決めるって書いてあるけれど、うちのクラスの場合どうすればいいんだろう?」
言いながら、窓際を向くために振り返る。
その視線の先には、ひとつの空席。

何かの病気でずっと入院している、吉村乃々(ヨシムラ ノノ)の席・・・らしい。


というのも、あたしは一度も彼女の姿を見たことがないから。
一番最初のショートホームルームの時に、担任から「病気が重くて滅多に病院から出ることが出来ない」とは去年も今年も聞いたのだけれど、お見舞いとかには一度も行ったことがない。

・・・・・・いや、行かせてくれない、と言う方が正しいのか。
以前クラス委員の子が担任に彼女の見舞いを申し出た時も、人見知りをする子だからと病院の名前と住所を教えてくれなかったらしい。