北海道の春は、寒い。
なぜなら、3月までしんしんと降っていた雪が、春の柔らかい陽射しを浴びても、溶けずにしぶとくこの4月まで生き残っていたからだ。

この寒さにはもう慣れた。
15回目を迎える春に、私は希望を持つ。

今日は、高校の入学式である。

私、藤田 万理華(ふじた まりか)はこの春に高校生になる。進学・就職率が高く地元では有名な公立高校だ。倍率もそれなりに高かったが、辛い勉強そして入試を経て、晴れて入学することが決まった。

「まりか〜」

真新しい制服に身を包んだ、見覚えのある顔。中学校からの友達である、三井 咲(みつい さき)の声だった。校門前にいた私に、車から降りた咲が声をかけてくれた。
「さき!ひさしぶりだね!」
「中学卒業してから会ってなかったよね!」
明るい咲の声に、この先の不安を抱いていた心の緊張の糸が、少しほどけた気がした。
「クラスみた!?」
クラス…?私は玄関の窓ガラスに目を向けた。何か白い紙が貼ってある。もしかして…!
私たちは、玄関までの道を走り、貼り紙のもとへ向かった。


1年A組…B組…C組…D組…!

34番 藤田 万理華
35番 三井 咲

「「同じクラス!」」
しかも出席番号が並んでいる。たくさんの中学校から人が集まるこの高校で、近くに同じ中学校出身者がいることはとても心強い。
1年間は安心だ、よかった、なんて考えていた。

咲が私の左手をひく。
「教室行こうか!」
入学式前のホームルームが始まるまであと30分。少し早いが、私たちは教室に向かった。



私はこの時、まだ何も気づいていなかったのである。
自分の名前を探すために見過ごしたクラスの名簿、男子の欄に、私が世界で1番好きになる人の名前が書かれていたことを。