「ねえ、エイジになんかされなかった?」

日が落ちた頃に蓮が帰ってきて、私にいきなりそんなことを聞いた。


「べつに、普通におしゃべりして、おやつ食べてコーヒー飲んで、帰ってっただけだけど。」

普通のふりしてそんな風に答えたけれど、内心落ち着かなかった。
エイジ君に対するこの気持ちがなんなのか、モヤモヤとした気持ちがしこりのようにずっとのこっている。

「ああ、そういえばメアド交換はしたよ。」

蓮はマジで?ってビックリしている。
前に会ったとき、私が彼に対して怒っていたんだと思っているらしい。

あの時はビトもいたし、おじさんたちもいたし、大人に紛れてビールなんて飲んじゃってる彼にあきれていたんだ。

必要以上に意識している私に、ビトもなんだか気づいてオロオロしているのもわかっていた。




ビトと二人自分の部屋にいたときも別の部屋からやけに煩いパンクロックが聞こえてきて、それもなんだかいらつかせて、思わず「うるさいから音小さくしてよ!」って怒鳴りにいってしまったっけ…


ビトのファンに隠れながら、やっとのことで平穏な付き合いができてきたと言うのに、平和すぎて何も起こらない日常に退屈している自分がいる。

ただ会うだけ、側にいるだけ、でもどこにも行けないしなにも出来ない。
私は平安貴族の姫のように、ただビトを待っているしかないんだ。

いやきっと、あの頃の姫だって、待ちわびた人がやっていたのなら、会瀬を重ねたはずだ。

私達には、それすらもなかったから…


エイジ君は、なんだか知らない未来を見ているようだった。
私たちが想像している以上の、斜め上に居るような人に思えた。

こんな別世界があるのだと、私や蓮を導いてくれる人のように思えた。