すっかり涙も乾いて、しばらくすると、エイジ君が一人で戻ってきてくれた。

少し鉄さんと話した後、まっすぐに私のところに帰ってきてくれる。
その表情が今日一番の穏やかな笑顔で、ああやっぱり大丈夫だったんだってほっと胸をなでおろした。

「おかえり」

それだけ言うと、

「ちゃんと終わらせてきたからな。」

そういって私の隣に座り、優しくいつものように手を握り締めてくれた。



「リンダちゃんは帰ったの?」

「ああ、帰ったよ。」

やっぱりいずらいよね、私が居ると・・・
ちょっと彼女と話してみたかったかなとも思ったけど、それは今じゃない気がするんだ。

でもきっと同じ人を好きになった人だもの、何か通じあうものがあるはず。



「エイジ君、ちゃんと覚えててね、今日のことも今までのことも。忘れるなんていわないでいいから・・・」

そう、もう戻ってきてくれたんだ、それを信じよう。
もう何があっても大丈夫だと。


「お前はそれでいいのかよ?」

エイジ君はそんな風に言うけど、忘れるなんて無理でしょう?


「私たち同じだって言ったのエイジ君じゃん、私だって忘れることなんて無理だもん。
いろんな辛い傷痕(カコ)があって今があるって、私だってわかるよ。」


エイジ君が私の手をぎゅっと握ってくれるから、この手の温もりを忘れないようにしようと思う。





「ああ、ゴメン、私余計なことしたかなあ・・・リンダちゃん大丈夫かなあ・・・」

カオリさんは相変わらずで、また一人で号泣しながら、やっと飲みかけのビールを飲み干していた。
きっとエイジ君が戻ってくるまで待ってたんだな・・・

「なに泣いてんだよ。」

エイジ君が笑って突っ込んでいる。

「だって、みんながハッピーにならないと嫌だから…」

泣きながら、注文いいですかーなんて叫んでいるのが面白い。



「あのさ、別に彼氏がいないとか別れたとか、それだけで不幸とは限んないじゃん。
リンダさんはさ、色々開放されて、楽になったのかもよ? しばらく彼氏とか要らないって思うかもしれないじゃん。」

「いいこと言うな」

蓮がそう言ってなだめていると、鉄さんがそう言いながら今度はから揚げを持ってきてくれる。


「カオリちゃん、大丈夫だから。リンダのことは、俺とミチルでちゃんとフォローするし。
今までさんざんエイジのお守りさせてたからな。」


父親にそんな風に言われてエイジ君がちょっとむくれていたけれど、怒ってるわけじゃないみたい。

リンダさんも、親子ぐるみで仲がよかったんだなとわかって、それはちょっと複雑だったけれども。




「その子が彼女か?」

「ああ。」


そういえばさっきからちゃんと挨拶してなかった。

「二宮桃です、はじめまして。」


私は立ち上がって、改めてお辞儀をする。



「高橋鉄です、よろしくね。こいつ強がってるけどガキだから、色々面倒かけるかもしれないけど、仲良くしてやってな。」


鉄さんは笑いながら、エイジ君の頭を軽く叩くと、うるせーとか言いながらエイジ君も笑っている。


「私の方が、いつも我儘ばっかり言って、困らせてばっかりだから。その、エイジ君は大事にしてくれてますから大丈夫ですよ。」

いつものクセで笑顔で答えちゃったけど、自然に笑えてたかなってちょっと不安になる。



「いいじゃん、わがままなのは素直ってことだろ?そういうの言わないやつがほんとにガキだって言うんだよ。若いうちはさ、なんでも突っ走って失敗すりゃいいんだよ。」


鉄さんはやっぱり大人なんだな・・・言う事がいちいち重みがあるなって思う。


「カオリちゃんお代わりは?」

「じゃあビールで!みんななんか飲む?」

カオリさんが空いたグラスをかたしながらみんなにきくと、「じゃあ俺も」ってエイジ君が言うので「お前には飲ませねーっつってんだろ」って小突きながら鉄さんはカウンターに戻ってしまった。


「からあげー!食う。取って。」

蓮が元気にそういって、まだまだもりもり食べてるから、相変わらずだなって私も笑ってみていた。


「私も食べる~」

揚げたてのから揚げは、私が作るのとは違った味で、甘辛くてしっとりとしていた。