「まさか、三田紗栄子が、あの紗栄子だって言うの?」



「言ってはない。俺はヒントを与えただけ。」



金子は牛乳を飲み終え、その瓶を窓の外に投げ捨てた。



遠くで瓶の割れた音が響く。



「バッカヤロー! おい、金子! 死ぬとこだったぞ!」



遠くで紗栄子の声が響いた。



「悪い悪い。」と大きな声で返した金子は、それからボソッと「チッ。死ねばよかったのに。」と言った。



仲がいいのか悪いのか、わからない。



でも、きっと紗栄子はあの凶悪犯、三田紗栄子で、金子も訳ありのヤバい奴なんだと思う。



そんな二人が、歪んでいるとはいえ、限定的とはいえ、人の役に立つ仕事をしている。



それは、必死に生きるため。人間に与えられた命の灯を燃やすため。



そこには、善も悪も法もない。人間の義務を全うしているだけだ。



自殺して、人間の義務を放棄した人間よりも、よっぽど人間らしい。