「それで、キミの要望のことだけど。」彼が私に近づいてきて、思わずパーカーのポケットの中のバタフライナイフを強く握り直した。



「答えはNOだ。」



「どうして?」



「キミがこの世界に入ることに、何一つメリットがない。」



「メリットならある!」と食い下がった。



「私は人を殺してみたい。人を殺すことに興味がある。」



「その興味は勝手に自分で追及すればいい。僕たちの仕事と人殺しは違う。」



「根本的には一緒でしょ?」



「いや、根本が違う。人殺しには相手に対しての恨みつらみがあったり、無差別なら社会に対する不平不満や自分の置かれている状況、境遇に対しての憂さ晴らしが込められている。でも、仕事は違う。お金をもらって、自殺したい人を救うという目的がある。」



「でも、結局は殺すという意味では何も変わらない。」



「それがわからないキミには、この仕事は向かないよ。」



弱った。頑なに反対されている。



きっと私のことを思ってのことだろうと思う。でも、その親切心は私を追い詰めるだけだ。不要。私のことを思ってくれなくても、仕事をさせてくれるほうがよっぽど親切だ。