「ねえ、紗栄子。」私はフランスパンを千切って、クリームシチューに浸した。
「ウツって漢字、どう書くの?」
「はあ?」紗栄子の声が上ずった。
「お前、そんなことも知らねえのか?」
そう言った紗栄子の表情が、心なしか柔和で、そんな紗栄子を見ていると、私も頬が緩んだ。
「だって、難しいじゃん。」
「世の中にあるものは、大抵難しいもんなんだよ。だから、人は悩む。悩んで、考えて、簡単な方法を見つける。」
「じゃあ、ウツって漢字も?」
「ああ。」紗栄子が電子タバコを宙に向けた。
「覚え方があるんだよ。」
-了-



