窓の外はもう既に夕暮れ時で
西向きにある小さな窓からはオレンジ色の光が入り込んで来ている


外を見上げれば薄く形の崩れた月がボウッと浮かんでいる


お父さんもお母さんをじっと私を見つめて離さない


私は窓の外を見ては部屋の中の重苦しい空気に はぁ、とため息をついた

何故ならば、
お母さんもお父さんも全く別の人を見るような瞳を私に向けてくるのだから

…たしかに。私の考えがお母さん達からしたら180度変ったと思うのは不思議じゃない


…けど、さすがにそこまでかなぁ?
と、そう思いつつ
そんな2人に私の意見が180度変わった理由を説明するほかなかった


「…私は…、修也が死んで
絶望して
何日も何日も修也のことだけを考えて。

ある時、ある人と出会ったの。

その人が私を変えてくれた


…ひとりだと思っていた私を、…抱きしめてくれた」



ポツリと呟けば
私の脳裏に思い浮かぶのは乃々のあの笑顔

『あなたはひとりだよ』

私にひとりじゃない事を教えてくれた人は
唯一私がひとりであると言い放った



それでも私は乃々の放った言葉を信じられなかった
乃々の優しさの全てが嘘だとは思えなかった



「…今は、ちょっと…

会えないけれど。




私は、あの人に変えられたの…。




前を向いて生きることを…
教えてもらったの」




私の言葉にお母さんは眉間にしわを寄せて俯いた
お父さんは口を開けて驚いた顔をしている
そんな状態の2人をほっぽって私は話を続けた。


「…修也が死んだこの世界を、私は夢だと思いたかった

…現実では、修也が笑って生きていると、早く目覚めたいと。思っていた


それでも…
あの人は私に現実を突きつけてくれた。

それはきっと冷たい言葉だったけれど、どんな上っ面な言葉よりも愛情があった」



一度目を閉じてふぅと深呼吸をする



乃々に教えてもらったこと

すべてを私は信じたい



信じることができる気がするのだ



「…もしも…この世界が本当に夢ならば。
もしも、全てが長い永い夢で、
本物の現実があるならば。
今感じている匂いも感触も気持ちさえも全てが作り物ならば。

目を逸らして閉じこもって泣いている間に時が過ぎていつか目を覚ます時が来るかもしれない

…でも

もしも全てが夢ならば
夢のうちに

たくさん走っておこう
たくさんの思い出を作ろう
たくさん馬鹿なことしよう
たくさん遊んでおこう
たくさん笑っておこう

…目が覚めた時に、
幸せな夢だったと思えるように。

背伸びをして『良い朝だ』と思えるように。」



この世界が本当に夢ならば。
夢ということがわかっていたとしても私は夢を精一杯生きたい


そう思うようになったのは

乃々がいたから
愛妃ちゃんがいたから
進がいたから
お父さんとお母さんがいたから
…修也との思い出があったから。


夢だとしても、
私は最後まで生きたいと

最後は笑って死にたいと。


「そうでしょう?」


微笑んで軽く首を傾げれば
お母さんは涙で歪む顔を隠すように
震える声を耐えるようにこくりと頷き

お父さんは私を温かい目で見つめた



2人の私を見る目は優しかった

あの、先生のような愛情たっぷりの子供を見るような瞳

…私が逸らしていたのだ。
この優しい瞳から
私が逃げていたのだ。
2人がどんな思いをしていたかを受け止める事を



お父さんもお母さんも
私を愛している


…私もまた

お父さんとお母さんを

愛している