雨上がりの、澄み切った空の下。



 写真の中の少女は、紫や薄桃や空色に咲いた、たくさんの紫陽花に囲まれて笑っていた。
 青々とした葉の上で揺れる、透き通った雫。その雫に反射して小さく光る陽光のように。俺の行く道を照らし、心を溶かしてくれた、あの笑顔のままで。



 もし、これがドラマだったなら。



 俺たちは運命のように再会して、今度こそ同じ道を歩けるのだろうか。
 一番大切な彼女の隣に並んで、手を取ることができるのだろうか。
 バカみたいな冗談の言い合いも、真面目な話もできるのだろうか。



 ––––––何よりもう一度、あの笑顔に会えるのだろうか。



 そんなわけないよな、と俺はため息をついて空を見上げる。
 雲ひとつない空が“あの日”を思い出させるようで、少しだけ胸が痛んだ。



 会いたい。
 彼女に会って、また一緒に並んで歩きたい。彼女の明るい声を聞きたい。彼女の笑顔を、一番近くで見ていたい。
 でも、きっとこの願いは叶わない。
 だって俺は、ドラマの主人公なんかじゃないのだから。

「でもお前はきっと、何言ってんの、って怒るんだよな」
 笑顔の彼女にそっと問いかける。その笑顔が無条件に向けられていた過去の俺が、今どうしようもなく羨ましい。




「そんなの当たり前でしょ。みんな、みんなそれぞれのドラマを生きているんだから。––––玲央だって、ドラマの主人公なんだから」



 写真の中の彼女が、少し怒ったようにそう言った気がした。