それから何週間か経ったけど、あたしは相変わらず
王子のカイロ代わりをしていた。

忘れてたけど、王子の手はとっても冷たいので、
いくら体温の高いあたしでも、手が冷たくなる。

だから、王子のカイロをしてない時は自分のカイロで暖まっている。

あたしが寒いと思っても、そんなあたしの手よりもっと冷たい王子の手を
少しでもあっためたくて、カイロで暖まっていることを、王子は知らない。
あたしがそんなことを考えていることも、王子は知らない。

一緒に帰ったのはあの日だけ。
王子様は大人気なため、放課後は取り合いになる。

あたしは委員会があるため、ちょっと遅く下校していた。

「やっほー夏乃ちゃん!」

「あ!須藤!やっほー!」

須藤が自転車から降りて話しかけてきた。
須藤は自転車通学だ。

「今帰り?」

「うん、委員会があって、ちょっと残ってたの」

「そっか、お疲れ」

「ありがと」

「あれ?北川は?」

「誰かわかんないけど、女の子と帰ったよ?
一緒に帰ったの一回だし。
北川に何か用があったの?」

「いや?別にないけど...っていうか、
夏乃ちゃんいつから北川のこと呼び捨て?」

「んー...須藤置いて北川と帰った日、だよ」

「...あー、あの日ね」

「...うん。ほんと、あの日はごめんね」

「あー、もーいいよ。そんな気にしないで?」

「須藤...ありがと」