「あ、すみません、忘れてました」
「もうっ! クリスマスの夜に恋人がいない同士たちで飲もう、って誘ったじゃないですかぁ」


受注処理をしていたパソコン画面の向こうに、ちょうど田所さんの表情が見える。頬を膨らませた、拗ねた彼女みたいで可愛い。

そのまま私は目線をすっと、窓の方に移した。
さっき降ってた雨が、すぐに溶ける湿っぽい雪に代わっている。

冷えてきた。寒そうだなぁ……。
重たいみぞれは髪や靴やスーツを濡らし、容易く体を冷やすだろう。

マウスから手を離し、私はデスクに頬杖をついた。そして何気なく、もう一度フロアの出入口を見た。


「絶対参加してくださいね!」
「ええ、なるべくそうします」


完全に衛藤狙いの田所さんは、確約とはいかないその衛藤の返事に不服そうに唇を尖らせる。

そのとき不意に衛藤と目が合った。
ぱちん、と効果音が鳴ったように。


「衛藤さん、何時ころ帰社される予定ですか?」


未だ田所さんは、衛藤のそばから離れようとしない。

私は衛藤を見ながら、窓の外をつんつん指差した。そんで口パクで、〝雪降ってるよ〟って言った。