虎勢会の一件から
暫くは籠の中に閉じ込められていたけれど

不穏な動きも無くなったことを
確認出来たのか

少しずつ外へ連れ出されるようになった

もちろん碧斗さんの腕の中だったり

奈美さんと護衛さん達に挟まれて歩いたり

でもそれも

家の中しか見えない生活より
楽しいものだった


雑誌に載っていた
海外のパンケーキカフェの出店に
どうしても行ってみたいと
お強請りをしてみる

甘いものが苦手な碧斗さんから
渋々承諾してもらったのは
オープンから3ヶ月も経った頃だった

長い行列に並んでいると
少し前に並ぶ女の子の集団の中から


「陽菜じゃん」


聞き覚えのある声が届いた


・・・あっ


行列から抜け出て
目の前に立ったのは
クラス1の才女だった後藤真尋《ごとうまひろ》だった

大学生らしくない濃い化粧に
ジャラジャラと着くアクセサリー
身体の線を強調した服は
さながらキャバ嬢のよう

奈美さんと私を交互に見て
フンッと鼻で笑ったあと


「陽菜ってこんなにオシャレだったっけ?」


髪、洋服、バッグ・・・
順番に触れたところで

背後の護衛さんがジワリと近づいた

その変化に気づいた真尋は
バッグの中からキラキラした名刺を取り出すと


「興味あったら連絡して?
 今の陽菜なら稼げるから」


意味深なことを囁くと
無理矢理手に持たせて
行列の先へと戻っていった