・・・誘拐?拉致?

そういえば碧斗さんの元へ
連れていかれた日も

そんなことを思っていた

あの日と明らかに違うのは
刃物なんて出されなかったこと

ちゃんと名前も確認されたけど・・・
こんな威圧感じゃなかった

大きな黒いバンに乗せられると
両脇を大きな男に挟まれて座る

両手が拘束され
吐く息まで震える


デパートの中から
車に乗せられるまで
一言も声を発してない男達


・・・もしかして人違いとか?


「あ、あの・・・」


震える身体を抑えながら
声を掛けると


「黙ってろ」


唸るような声がぶつけられた



・・・怖い



碧斗さんの周りの人達からは
感じたことのない恐怖が

危険の警笛を鳴らす


・・・碧斗さん・・・助けて


携帯も持っていないから
連絡する術もない

絶望的な思いの中で

頭に浮かぶのは
碧斗さんの腕の中に居る自分だった

泣き虫のはずなのに
恐怖が強すぎて涙も落ちない

無限の虚空に立たされたような気分に陥ったころ

海岸沿いの大きな倉庫の前に車が停まった


「降りろ」


フラフラする足を踏ん張りながら
埃っぽい中へ入った