「いらっしゃい陽菜ちゃん」



お婆様に笑顔で迎えられると
運転手の桧垣さんと護衛の岡野さんだけを残して
一平さんは帰ってしまった


「窮屈じゃな~い?」


「はい、大丈夫です」


広いお庭に面したテラスで
お茶を飲んでいると
お爺様も話に加わった

幼い頃に亡くなった祖父母を求めるような楽しい時間


「陽菜ちゃん、お買い物に出ましょう」


お婆様の提案でデパートへ出掛けることになった

お婆様は他の車をと言われたけれど
碧斗さんからの言いつけを守りたくて桧垣さんの運転する車に乗った

デパートでは外商担当者の出迎えを受け店内を巡る

案内がつくなんて知らない世界

如何にもの桧垣さんと岡野さんは
距離を保ちながら護衛につきますと
少し離れた

ちょうどデパートは
催し物会場で開催される
『全国旨いもの市』の真っ最中で

凄い人でごった返していた


「陽菜ちゃん、何か欲しい物はないの?」


「いいえ」


次々と買い物をするお婆様を見ているだけで充分

いつしか外商担当者とお婆様の背中を見ながら歩いていた


・・・追いつかなきゃ


焦れば焦るほど人の波がお婆様との間を埋めるように重なる


走らなきゃと思った瞬間


「・・・っ」


背の高い男達に四方を囲まれた

パニックに陥る私の視界に入ったのは

隣に立つ男の持つナイフだった


「・・・っ」


声も出せない程の恐怖が襲い
逃げ出そうとする足に力が入らない

やがて・・・

男達の動くまま
非常階段から外へと連れ出された