「陽菜ちゃ~ん、こんばんは~」


突然背後から
大きな声がして肩がビクッと跳ねた


大きな声の主は向かい側のソファに座ると



「お~可愛いじゃん
 さすが兄貴が閉じ込めてるはずだ」



訳の分からないことを言う


・・・兄貴って?碧斗さんの弟さん?


突然の状況に
瞬きを多くしていると


「紅太《こうた》さん
  組長に叱られます」

さっきまで“姐さん”と
笑顔向けていた組員さんの顔に焦りが見られる


「ちょっと位いいじゃん
 俺、陽菜ちゃん見るの初めてなんだぜ?」


碧斗さんと違って
一平さん寄りの軽いノリの弟さん

目鼻立ちは碧斗さんとよく似ている


観察する間に
テーブルを飛び越えて
隣に座ると

サッと右手を差し出し


「俺、大澤紅太よろしくね」


ニッコリ微笑んだ


「し、・・・陽菜です」


“しのみや”と言いかけて慌てて訂正する

自己紹介なんて結婚して初めてのこと
『大澤』と言い慣れず
下の名前だけにした


「どお?兄貴と居て窮屈じゃない?
 あの屋敷に閉じ込めてんでしょ?
 ま、その意味は分かるけどさ〜」


またも理解不能の質問に
どう答えて良いのか分からない

握手のために伸ばした手は
両手でガッチリと挟まれてしまった

ソファで向かい合い
手を取り合う二人に


「貴様どういうつもりだ!」


出掛けた時よりも怖い顔をした碧斗さんが吠えた