外がこんなに心地良いとは
思いもしなかった


「奈美さんありがとう」


外に連れ出してくれたのは
きっと昨日の涙のせい

「私は何も」

そう言って微笑む奈美さんに
手渡されたガーデニング手袋を着けると


カラフルな花の苗を
綺麗な花壇に並べては植える


レンガやタイルで曲線を型どるのは
出来たばかりの様な花壇

まさかこれが
碧斗さんからのプレゼントだとは知らなくて

久しぶりの感覚に没頭していた



「そろそろ桜も咲く頃ですよ」



屋上といえども鉄壁の要塞のように
高い囲いに阻まれ外の様子は窺い知れない


奈美さんの手招きで近づくと高い壁の一部分
屋敷のお庭向きにある小窓が開かれた

視線の先に大きな桜の木
枝には薄いピンクの蕾が見えた

屋敷の中なのに外に面した廊下を
歩いたことがなくて

初めて見る景色に思えた

お庭は想像していたより広くて
普段目にする部屋も廊下も
ごくごく一部なのだと実感した


呼び戻されるように
また花壇の土を均しながら



「毎日水やりしても良いですか?」


どうせ無理と決め込んで
恐る恐る小さな声でお願いすると

直ぐ気付いた奈美さんは
二度頷いてくれた


「ここは陽菜さんの花壇なので
 毎日水やりをお願いしますね」


聞こえた軽い答えに一瞬で笑顔になる



「その代わりと言ってはなんですが
 この者達はいつも一緒にお願いします」



敷地内なのに大袈裟だけれども
拒否権は無さそうなので


無表情の2人にも


「これからよろしくお願いします」


笑顔で頭を下げた


「「・・・っ」」


驚いて目を見開いた二人を見ながら


「頭なんて下げなくても
 二人はこれが仕事だからね」


奈美さんは何でもない事のように
固まったままの二人を一瞥した