便座に座ったままいた私を
現実に引き戻したのは




「陽菜!・・・大丈夫か!
 どうしたっ!ここ開けろ!」



心配をする声と同時に響くトイレのドアを壊す勢いのノックだった


「大丈夫です」


急いで鍵を開け

スーツ姿の碧斗さんを見上げると
その胸に閉じ込められる


「・・・っ」


首を傾げて大丈夫かと顔をのぞき込む瞳は揺れていて

借金のカタに娶られた割に
とても優しくして貰っていることに気付いた


「お腹空いただろ?
 着替えて飯にしよう」


肩を抱かれたまま開けられた扉の中は
ウォークインクローゼットだった

一斉に点く照明が女性物の洋服を綺麗に照らす


「陽菜のは此処な」


手の先で洋服が揺れるのを見ながら
全てワンピースであることに驚いた


「今日はこれ」


手に取ったのは真っ白な下着に
真っ白なワンピースだった

ヒラヒラ揺れるワンピースは
胸元と裾に刺繍が施されている

着せ替え人形のように碧斗の手によって
ひとつずつ身に着けると


「似合うな」


そう言って微笑んだ


初めて会った時より表情が穏やかで
楽し気な碧斗の様子を
どこか冷めた目で見ながら

肩を抱かれて引きずられるように連れ出された