これまで何度かデートはしてきたけど、いつもはアパートの前で別れている。

彼が家にあがるのは、今日が初めてなのだ。

私が少し緊張しながら出迎えると、いち君は手にしていた細長い紙袋を差し出した。


「これ、お土産。アイスワインなんだけど、よかったら一緒に食事後に飲もう」


アイスワインは凍ったブドウを使ったもので、とても甘く芳醇な香りがするワインだ。

以前、カナダに旅行に行った友人からお土産に貰ったことがあるのだけど、その美味しさに衝撃を受けた記憶がある。


「ありがとう! 楽しみ。あ、狭くて申し訳ないけど、適当にくつろいでてね」


伝えて、私は再びキッチンへ入った。

私が住むこのアパートは1LDKの間取りだ。

六畳のリビングに六畳の洋室。

間仕切りの引き戸を閉めると狭く見える為、いつも全開にしている。

ただ、玄関から入ってきた時にベッドが丸見えになるのは嫌なので、少し背が高いシェルフを置いて仕切りに使っている。

いち君からもらった花は、そのシェルフの上に飾られていて、今もゼラニウムが部屋の雰囲気を明るくしてくれていた。

ちなみに、今までもらった花は何本か取り出してドライフラワーにし、瓶に入れてシェルフに飾っている。

どうやら彼はそれに気づいたらしく、食器をテーブルに並べる私に「これ、ありがとう」と指差して微笑んだ。