「何かあったの?」
大きなお世話かなと思った。
でも、酔いたくなるほどの何かが彼を悩ませているのかと思うと、声をかけずにはいられなくて。
私はいち君の横顔を見つめた。
「どうして?」
彼は私を視界から外し、逆に私に問いかける。
「お酒飲んで、紛らわせたかったのかなって」
「そう見える?」
「見える」
きっぱりと答えると、いち君は苦笑した。
やはり困らせてしまったかなと、話を切り替えようかと口を開いたと同時。
「沙優は、家族は好き?」
突然そんなことを聞かれて私は「んー」と声にしながら数秒悩む。
「好き、だと思う。困ったところも多いけど、愛情持って育ててくれてるのを感じるし」
アグレッシブな母に、のほほんと穏やかな父。
喧嘩もそこそこしてきたけど、その都度しっかり向き合ってくれる両親に、私は感謝をしている。
「そっか。うん、確かに、君のご両親は素敵だと俺も思うよ」
「いち君は、お父さんのこと苦手?」
彼のお母様は亡くなっているから、あえてお父さんのことだけ尋ねれば、予想通り、いち君は「もう、昔からね」と答えた。
先日、彼のお父さんを前にしたいち君の表情や態度を見れば、彼が父親に対して何か思うところがあるのは見て取れる。



