その時、私はいち君をまだ【東條(とうじょう)君】と呼んでいたはず。

いつだったか、【一】という名前を見て、はじめだとは思わず勝手にいち君と呼んでいた。

でもいち君は訂正せず、私にずっといち君と呼ばせてくれていて。

友達に東條君は【はじめ】っていうんだよと教えてもらって驚いた。


『いち君、私いち君の名前間違えてたんだね。ごめんね』


謝った私に、いち君は頭を振った。


『ううん、いちでいいよ。沙優ちゃんには、いち君て呼んで欲しいから』


とろりとした微笑みを向けられ、その時初めて彼に対し胸が高鳴ったのを覚えている。

それが恋というものだと自覚したのは、中学に入学してからだけど……

その想いは、告げられることなく終わりを迎えた。

いち君の、突然の転校によって。

連絡も取れなくなり、それからずっと疎遠だった。
なのに……