──初めていち君と出会ったのは、確か小学二年の時だ。

彼はいつも、みんなの輪から外れたところにいた。

教室の片隅で、静かに難しそうな本を読んでいた。

別に嫌われているとかではなかったし、女子からは王子様みたいだよねと囁かれていたっけ。

勉強もスポーツもできるから、男子からも頼られていた。

でも、休み時間はいつもひとり。

お父さんが社長さんだから将来の為に勉強しなければならないのだと、誰かから聞いたけど……

どうしてか。

ひとりで本を読んでいる時のいち君が悲しそうに見えて。

私はある日、一緒に遊ぼうと、勇気を出して声をかけたんだ。

そんな暇はないとか言われて断られると思ったのに、予想に反していち君は戸惑っていた。

行きたいけれど、行ってはいけない。

そんな風に見えて、私は少し強引に彼の手をひいた。


『たまには外で遊ぶのも楽しいよ』


伝えると、いち君ははにかんで。


『うん。よろしく』


読んでいた本を閉じ、誘いに乗ってくれた。