意を決して歩みを進め彼に近づいていくと、気配に気づいたのか顔ごとこちらを見たいち君は目を細める。
「沙優ちゃん」
ニコリと微笑んだ彼に、密かに胸を高鳴らせつつ「待たせてごめんね」と伝えて。
するといち君は頭を振って「全然待ってないよ」と言った。
よく見ると、彼の右手にはネイビーカラーのトートバッグが下がっている。
そういえば、待ち合わせ場所は聞いたけどどこへ何をしにいくかはまだ知らなくて。
目的地を尋ねようとした矢先──
「それじゃ行こうか」
大きな手のひらが、私へと伸ばされた。
「え?」
「デートなら手を繋がないと」
「手を!?」
確かに恋人同士のデートならそうだろうけど、私たちは久々に再会した幼馴染だ。
結婚うんぬんという話もあるけど、承諾したわけでもないし、何より今までいち君と手を繋いだことなんてなかった。
互いに大人になった今、手を繋ぐという展開に動揺を隠せないでいると、節くれだった綺麗な手が少し強引に重ねられる。
「はぐれる心配もないし、俺も嬉しいし一石二鳥だな」
はにかみ、引き寄せるようにして歩き出した彼に倣い私も足を進める最中、戸惑いつつも手を握り返した。
そうすれば、いち君は嬉しそうに破顔して「今日は臨港パークでゆっくりしよう」と行き先を口にする。
「うん」と頷いたけれど、正直言えば生返事だ。



