……言葉に、ならなかった。

胸が痛くなるほどの真摯な愛情に、熱い息を漏らす。

私の為に、たくさんのものを犠牲にして、努力していたのに。


「私、知らなくて……」


絞り出した声は、湿り気を帯びて震えてしまった。


「当たり前だろ。話してないんだ。だから、沙優は変に背負わないでいいから」


片膝をつき、柔らかい声で微笑まれる。

私は与えられた優しさに甘え、ゆっくりと頷いた。

彼の選んだ道は、私の為でもあり、彼の為でもあるのだろう。

彼が諦めないでいてくれて良かった。

会いに来てくれて、良かった。


「でも、再会したならもっと早く教えてくれてもいいじゃない」


すんと鼻をすすって拗ねると、いち君は困ったように笑う。


「これを先に知らせるのは、さすがにズルいだろ? だから、沙優が結婚してくれると決めてくれたら全部話そうと思ってたんだ」


確かに、あのお見合いの席でこの手紙を見せられたら、気持ちは早く結婚に傾いていたかもしれない。

けれどそれは、今のいち君ではなく、過去のいち君を中心に見た結婚。

愛情ではなく同情の方が大きいだろう。

そして、こうして結婚を決める前に見せてくれたのは、過去に得た私の傷を癒そうという彼の優しさの現れだ。

けれど、いち君は自分のワガママだと言う。