「……そもそも、いち君は勝手過ぎるよ」
私は、彼の側から離れて、シェルフに飾られたドライフラワーを眺めながら唇を動かす。
「何も言わずに転校して、連絡が取れなくてなって、私がどれだけショックだったか」
ずっと、ぶつけたかったのだ。
昇華したかった。
過去の悲しみを。
それは、もういいよなんて笑って許せるような悲しみではなかった。
苦しくて、呼吸さえできないような錯覚を覚える日々は、今思い出しても切なくて胸が痛くなる。
例え、いち君も同じように苦しんでいたとしても、そこにある別れの理由なんて何も知らない私は、目標もなくただ悲しみに明け暮れるしなかったのだ。
「ごめん……」
謝り続ける彼に、もういいよと言ってあげられない私はなんて狭量なのか。
そう思うのに、言葉は溢れて止まらない。
「それで今度は急に現れて結婚だなんて言われて」
どこまで勝手なの。
そして、それでもまた彼に恋に落ちるなんて、私も大概愚かだ。
「本当に、好きだったの」
過去の私の想いを乗せるように声にすると、鼻の奥がツンとする。
同時に、いつのまにか私の背後に立った彼が、腕を伸ばして、優しく、壊れ物を扱うかのように私を抱き締めた。
「だから、賭けたんだ」
「……え?」
耳元で、囁く声に私は瞳を潤ませながら続きを待つ。
「伝わってたから、沙優の気持ち。だから、応えたくて……君と、離れた」
「意味、わかんない」
結局、まだ話てはくれないのだ。
そう落胆した私を、彼の腕が違うんだと言わんばかりに強く抱き締めてきて。
「全部、話すから。付き合ってほしいところがある」
いち君の穏やかな声には決意を込められていて、私は小さく、けれどしっかりと頷いてみせた。



