いち君は、髪の毛を中途半端に拭いたままで出てきた。
早く私にも入ってもらおうと急いだらしい。
私は冷える程濡れてないから後でも大丈夫だと伝え、彼に椅子に座って待つよう声をかけるとドライヤーを手に戻った。
そして、彼の後ろに立ちスイッチを押して温風を濡れた髪に当てる。
いち君から私と同じ香りがして少しこそばゆい。
「沙優、自分でやるからいいよ」
「いいの。やらせて」
向き合うと決めたくせに、いち君を正面に話をするのが怖くて私はこんな方法を取ったのだ。
けれど、どう切り出すべきかわからずに、彼の柔らかな髪に触れ続けていたら。
「樹……羽鳥樹から、聞いた。君が何を悩んでるのか」
いち君の方から沈黙を破った。
ぐ、と喉の奥が詰まるような感覚がして、私は酸素を求めて息を吸う。
「そう、なんだ」
いち君が相談しから話したのか、心配で自らいち君に伝えたのか。
どちらにせよ、羽鳥さんに悩んでないで動けと言われている気になる。
湿っている髪を探してさらに乾かしていく私に、いち君はハッキリと言った。
「吉原さんとは、何もない」
……何も、ない?
あんなに親しそうにくっついて、何もないなんて。
「信じられるわけ、ないよ」
だって私は見たんだ。
「吉原さんが、いち君の頬に触ってた。いち君だって、笑いながら彼女に……っ」
キスをしたでしょう?
最後まで声にならずに、私は震える唇を噛み締めた。



