「ごめんね。スマホ無くしちゃって。連絡、くれてたよね」
「そうか、無くして……。でも、謝りたいのはそれだ──」
いち君が話していた時、ふいにガチャリと音がして出勤する仁美さんが部屋から出てくる。
彼の言葉は堰き止められ、代わりに私たちに気づいた仁美さんが艶やかな唇を動かした。
「あら、今帰り?」
「こ、こんばんは」
二人でいる時に仁美さんと遭遇したのは初めてで、私は一瞬戸惑ってしまう。
彼女は玄関ドアを閉めるといち君を見て「こんばんは」と愛想良く微笑んだ。
そして、さすがホステスさんとでも言えばいいのだろうか。
特に詮索することもせず、けれど私……と言うよりも、いち君を見て驚いた。
「やだ、ずぶ濡れじゃない。彼の方、着替えはあるの?」
「あ……そういえば」
言われて初めて気づく。
服を乾かしてる間に着る物がない。
完全に抜けていて、口を開けてる私に仁美さんが「ちょっと待っててね」と言うと、また部屋へと戻っていく。
再び二人になっても、いち君はさっきの言葉の続きを話すことはなく、けれど、私も促すことはせずにいた。
なんとなく、彼が言わんとしていた内容がわかるから。



