優しさに心を打たれていると、階段を踏みしめる短い音が聞こえて、再びいち君が部屋に入ってくる。
その手には透明なグラスに注がれたお水と、カットされたフルーツが盛り付けられた木のお皿。
彼はそれらをベッドサイドテーブルに置いて、ベッドに腰掛けた。
きしり、とスプリングが音をたてる。
「フルーツ、食べれそうかな?」
ほのかに甘くフルーティーな香りが鼻をくすぐり、私は首を縦に振った。
そして、伝えていなかったと口を開く。
「いち君、ありがとう」
助けてもらったこと。
ここに連れてきてくれたこと。
お礼を言うと彼は微笑んで、優しげな声で話す。
「助けるのは当然のこと。それと、ここに連れて来たのは、本当は理由があるんだけど……まだ、気づかないかな?」
「理由?」
明倫堂が関連しているのかとか、いち君か私が行きたいとか言ったのだろうか。
思い当たらず小首を傾げると、彼はクスクスと笑った。
そして、私の手に水の入ったグラスを乗せる。
「あとでわかるから、今はその為にゆっくり休んで」
そういうと、いち君の手が今度はフォークに伸びる。
次いでカットされたフルーツを刺すと、笑顔で言った。
「はい、アーン」
自分で食べるとか、今はいらないという言葉は通じることなく、私は耳を赤くしながら楽しそうないち君にお世話されたのだった。



