「眺めはどう?」
「最高」
即答するといち君は手に持った透明なグラスをリビングのテーブルに置いて微笑する。
「バスルームからも景色が眺められるんだよ。良かったら入っていく?」
「えっ!?」
「ベッドルームからも見えるし、泊まっていってもかまわないけど……」
どうする? と言いたげに首を傾げた彼に、私は両手のひらを彼に向けて小さく振った。
「い、いいですっ」
焦りすぎて敬語になってしまった私に、いち君は「そう?」と意外そうな顔をする。
「明日も休みだし、名案だと思ったんだけどな」
本気なのか、それともからかわれているのか。
私は苦笑いしてキッチンへと踵を返す彼の背に言葉を投げる。
「名案だけど、そういうのはちゃんとお付き合いしてからね」
すると、いち君はピタリと歩みを止めて振り返り少し真面目な顔を見せた。
「じゃあ、今この瞬間からお付き合いをスタートするのはどう?」
これは、多分本気。
しかも、結婚ではなく、付き合うという提案に私は迷って口をつぐむ。
ちょっと嫌な考えかもしれないけど、試しに結婚はできない。
でも、試しに付き合うのなら可能だなと。
そう考えた私は「それは……」と声を零した。
その様子に彼が笑顔を浮かべる。
「嬉しいな。プロポーズした時はあんなに必死に断ってたのに。少しは望みが出てきたのかな」
返事は求めていないのか、いち君は声にするとキッチンに戻った。
そして、次に現れた時は、大きめのトレイに食事を乗せてテーブルに置いた。



