いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~



「どうぞ、入って」


いち君に促され、でも私は首を横に振る。


「え、いいよ。忘れ物でしょ?」


ここで待ってるよと言うと、いち君はまた楽しそうに目を細めた。


「じゃあ、お願いしていいかな? 一緒に探してくれる?」


ああ、なるほど。

忘れ物じゃなくて、探し物!

それならお手伝いしようと、私は頷いて部屋に入った。

そして、最初のエントランスホールに入った瞬間、私はそれに気づく。

壁にかかった大きな円形の鏡。

その前に設置された大理石の飾り棚の上に、大きな白い花束とカードが置いてあるのだ。

それを見つけた私を、いち君は意味ありげに目を細め、先に行ってるねと隣の部屋に移動してしまう。

もしかして、最初からこれを渡すつもりで部屋に入れたのだろうか。

そう思いながら花束に近づく。


「これは……クレマチスだ」


以前貰ったクレマチスの花。

あの時は【策略】の意味が込められていたけれど……


「え? まさかまた?」


さっきのいち君の表情を思い出し、また何か企んでいるのではと慌てて白いカードを手に取る。

表には【Dear 沙優】と書かれていて、裏返すとそこには見慣れた彼の文字。


【お礼、気に入ってくれると嬉しいです From いち】


「……もうっ、いち君! これだけじゃわかんないよ!」


どこかの部屋にいるであろういち君に聞こえるようにエントラスで声を上げると、奥の方からいち君の笑い声が聞こえた。


「こっちにおいで」


呼ばれて、私は花束を抱えカードを手にし、いち君の声を頼りに部屋を移動する。