いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~



ゆっことも久しぶりに飲めて、近況を報告し合って。

近々ゆっこの可愛い息子君にも会いに行かせてよと話したところで、私は一足先にBARを出た。

聖司が送って行こうかと言ってくれたけど、いち君に連絡したいと思っていたし、感謝しつつお断りして地上への階段を上る。

お酒で少し火照った頬に風があたって気持ちがいいなと、最後の階段を踏んだ直後──


「沙優」


柔らかな声が、私を呼び止めて。

その聞き覚えのある声に私は驚き顔を上げた。


「えっ、いち君! どうしたの?」


すっかり夜の気配に包まれた街中、パイプ状の白いガードレールに腰掛けていた彼に小走りで駆け寄ると、いち君は眉を下げて微笑む。


「ごめん……やっぱり、心配で」


彼の手にはスマホが握られていて、もしかして、心配しながら私からの連絡を待っていたのかと想像し、胸が痛んだ。


「大丈夫だよ。聖司も、何だかんだ言いつつ応援してくれてるし」

「応援?」


安心してもらいたくて口にしたけど、言ってから失敗したと唇に手を当てた。


「えっと、私といち君の……その、色々?」


濁して伝えると、いち君は端正な顔をキョトンとさせて首を傾ける。


「色々って?」

「い、色々は色々!」


この話は終わりとばかりに強く言えば、いち君はなんとなく察したようで小さく笑った。